「神様のことについて考えてことがある?」

感謝祭の休暇が終わり、新しい週が始まった。

英会話レッスンに顔を出すと、まずはマッスルマンさんに感謝祭のことでお礼を言い、楽しかったと簡単に感想を話した。その日のレッスンの相手はメラニー・カネシロさんという、やや背の小柄でぽっちゃりとした感じの女性の方であった。金髪碧眼色白といういかにもアメリカ人らしい容姿をしているにもかかわらず、カネシロとはずいぶんと日本風な名字をしているなぁと思っていると、日系二世の方と結婚したからであると教えてもらった。どうやら日本が好きらしく、日本にしばらく滞在していたこともあり、また大学で日本語を専攻しているということであった。日本語も話すことができるらしかったが、もっとも、その時は英会話レッスンの最中であったので、日本語で話すことはなく英語であったが。

さて、何を話していたのか今となっては詳しく覚えていないし、なんの弾みで話題がそっちの方になったのかはよく覚えていない。しかし、おそらく感謝祭の話題でそうなってしまったのだろう。メラニーさんがこう聞いてきたのである。

「カツは神様のことについて考えてことがある?」

ところで、カツとは私のことである。アメリカに行ってからはフルネームの「カツトシ」だと長すぎるので人に覚えてもらうまでが大変に思えたし、それに自己紹介のたびに「私はカツトシです」というのも面倒に感じたので、「私はカツです」と自分の名前を相手に伝えるようにしていたのである。おかげでカツというのが私の名前としてすっかり定着してしまった。さて、話がわき道に逸れてしまったようなので元に戻そう。

神様について考えたことがあるか?などと聞かれても、あまりにも唐突というか、そのようなことを聞かれるとは思ってもいなかったし、ましてやそのようなことを聞かれたことが記憶にある限りではなかったことなので、正直聞かれた私はびっくりである。当然ではあるが、なんと答えてよいのか分からなかった。もっとも、正しい答えと間違った答えがあるわけではないので、私の考えていることをそのまま言うだけで構わなかったのであろうが、神様とかそのようなことについてはまるで考えたこともなかったので、アタマの中が真っ白になってしまった。いや、最初から真っ白けの状態であったのでなんとも答えるべきことがなかったのである。

おそらく私はしばらくの間、思案に暮れて黙り込んだまま妙な顔をしていたのだろう、メラニーさんの方がむしろ心配してしまったようで、「何か変なことを聞いてしまったかしら。ごめんなさい」と言われてしまった。

「いえいえ、そんなことはないです。ただ、そんなことについて考えたことなんて一度もないのでなんと答えていいものか分からないだけです」と私も黙っているわけにはいかなかったので、そのような曖昧な返事をするしかなかった。しかしそれだと聞いてきた相手に失礼なように思えたので、神様が云々という程度のことではないかもしれないが、私の考えをさらに少しだけ付け足した。「でも、人間を超越した何者かがいるのではないかとは考えることがありますけどね。」

以前にも書いたが、私の持っている宗教観というのはその程度のものであって、神の存在を信じるとか信仰を持つとかいう以前の次元でしかなかった。

「聖書は知ってる?読んだことはある?」とメラニーさんに聞かれたのであるが、そんな私なので当然、聖書とは縁のない関係であった。もっとも高校の時に興味本位で手にしたことはあるが、読んだことはなかったので、聖書の存在は知っているが読んだことはないと答えた。

「それじゃあ、毎週土曜の夜にはここで留学生のために聖書の勉強会をやっているんだけれど、来てみない?」とメラニーさんが安心したような面持ちでニコニコしながら聞いてきたので、「そうですね、どうしようかな?考えておきます」と私は答えたのであった。

(続く)