哀れむ神、怒れる神

今回の主人公はアブラハムの甥のロトである。二人の旅人がアブラハムの所を出発した。実は彼らの正体は神の御使いであったという。日が沈み始める頃、彼らはソドムの街へと通じる入り口のところにいたロトに出会った。ロトは彼らの姿を目にするなり、立ち上がって駆け寄るとひれ伏して拝んだという。まるでロトが御使いの来訪をすでに知っていたかのようであるが、実際はどうだったのか分からない。アブラハムが事前にロトのところに知らせをやったと考えるのは無理そうなので、ここは不思議というしかあるまい。

さて、ロトもアブラハムと同じように当時の風習に従って、旅の二人を手厚くもてなした。「さあ、ご主人。どうか、あなたがたのしもべの家に立ち寄り、足を洗って、お泊まりください。そして、朝早く旅を続けてください。」(創世記19章2節)

すでに日が暮れ始め周囲が暗くなってきたので、ロトは夜の食事と一晩の宿を提供することにした。ところが、御使いたちはロトの申し出を遠慮してこう言った。「いや、わたしたちは広場に泊まろう。」(創世記19章2節)

ところが、ロトがあまりにもしつこくせがむものだから、結局彼らはロトの家に泊まることにした。ロトもアブラハムと同様に、ご馳走を用意して彼らに振舞った。

さて、その夜のこと、彼らがまだ寝入っていない時に、街中の男が老いも若きもロトの家の周りに集まってきて、口々に叫んだ。「今夜おまえのところにやって来た男たちはどこにいるのか。ここに連れ出せ。」(創世記19章5節)

あまり今の世では考えられないが、当時の人々は男色の気が濃かったらしい。おそらくロトはこうなることを予期しており、旅人を何としても自分の家で休ませようと考えたのかもしれない。さて、彼はあわてて玄関に出てくると、彼らに思い留まるようにと伝えた。しかし、彼らは聞こうとはしなかった。とうとうロトは自分の二人の娘を好きにしてもいいから、旅人にだけは手を出さないようにと言い出す始末である。いや、現在とは物の考え方というか、道理がずいぶん違っているようだ。そこまでして客に尽くすというのが当時の風習であったのかどうか…。ところが群集はロトの娘には何の興味も示さず、是が非でも旅人を奪おうとしたのである。彼らはロトを押さえつけて扉を蹴破ろうとした。幸いなことに二人の客は外に群がっていた暴徒に目潰しを食わすと、ロトを助け出して家の中に連れ込んでくれたのだった。

二人はロトにこう告げた。「ほかにあなたの身内の者がここにいますか。あなたの婿やあなたの息子、娘、あるいはこの町にいるあなたの身内の者をみな、この場所から連れ出しなさい。わたしたちはこの場所を滅ぼそうとしているからです。彼らに対する叫びが主の前で大きくなったので、主はこの町を滅ぼすために、わたしたちを遣わされたのです。」(創世記19章12~13節)

やはりソドムの街は悪意で満ちていた。神から遣わされた御使い自身がその現状を目の当たりにしたのである。もはや何者も、ロトの善意をもってしても、御使いがこの街を滅ぼすことを止めることはできなかった。御使いはロトに家族を連れて、街から逃れるようにと促した。それでも彼には少しためらいがあったらしい。最後は御使いが彼と彼の家族の手をとって街の外へと連れ出したのだった。これもすべて「主の彼に対するあわれみ」(創世記19章16節)のゆえであった。

ところが、ロトは途中で疲れてしまったのか、とうとう音を上げてしまった。もう逃げ切ることはできない、自分も死んでしまうだろうなどと考えるようになった。そして途中の町が見えるところまでやってくると、その町に逃がして欲しいと願うのだった。御使いの一人は彼にこう答えて言った。「よろしい。わたしはこのことでも、あなたの願いを入れ、あなたの言うその町を滅ぼすまい。」(創世記19章21節)

そして夜が明ける頃にロトがその町に着くが早いか、天から火が落ちてきて、ソドムとゴモラを焼き尽くしたと言う。神の哀れみで助かったロトとその家族、神の怒りで滅ぼされたソドムとゴモラ。神を敵にすることほど愚かなことはないのではないだろうか。